小説:ドグラマグラ
胎児よ 胎児よ
何故躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか
この一説を読んだだけで引き込まれてたのをよく覚えてます。
日本一幻魔怪奇の本格探偵小説、とうたわれた歴史的一大奇書、
ドグラ・マグラ の冒頭の詩です。
ドグラ・マグラ は読む人によって、また読む度に解釈が変わると言われる
謎めいた作品ですが、一番有名な解釈は、『胎児の見た悪夢』です。
人は生まれる前に一生分の体験を夢想している。
冒頭の歌もそれを暗示しているように思えます。
あながち間違った話でも無い様な気がしてしまうのは、
作者の夢野久作の非凡な文才もありますが、赤ん坊の頃が一生で最も長く夢を見ている、という事実。
寝ている時間が長いから、というのも勿論ですが、赤ん坊の眠りは人生のあらゆる時期の眠りの中で
最もレム睡眠(睡眠の種類の内、夢を見る眠り)の比率が高いそうです。
一日の8割以上を眠って過ごし、その内の半分以上は夢を見ている。
赤ん坊は、現実の世界よりも夢の世界を過ごす時間の方が長いんです。
逆に夢の内容を最も覚えているのは、眠りの浅い年老いた人達。
そして更に年をとって、段々寝たきりになって行き、いつかは永眠する。
動物の睡眠も、脳波を検証すると人と大差無いみたいです。
生き物は出産の瞬間に生まれるのではなく。
ゆっくりと、この世界に辿り着き、そしてゆっくりと、前の世界に還っていく。
なんとなくそんなイメージを持っています。
眠りと覚醒の境がゆるやかで曖昧なように、誕生や死もゆっくりとしたものなのかな、と。
まぁ、僕は300年くらいは生きるつもりだけど。